シリアでイスラム系武装組織に拘束され、3年4ヶ月ぶりに解放されたフリージャーナリストの安田純平氏が、帰国後初めての記者会見を行いました。
会見は予定を大幅に上回る2時間半以上にも及び、拘束から解放されるまでの経緯が詳細に語られましたが、その中で日本政府と安田氏を拘束した武装組織との交渉の一部が明かされたことにはとても驚きました。
安田純平氏が帰国後初の記者会見
安田純平氏のいわゆる「自己責任」論がネット上を中心に賑やかですが、私は、本サイトでも述べたように、彼が果たすべきは説明責任であると考えていました。
危険を顧みずにシリア入りを強行したからには、ジャーナリストとして伝えなければならないことがあるからでしょう。これだけ世間を騒がせた以上は、彼がシリアで見聞きしたことを説明する責任があります。
安田氏が記者会見を行うと聞き、何をどう伝えるのか興味津々でした。都合で記者会見の模様はライブでは聞けませんでしたが、会見の様子の全文を書き起こしたものをじっくりと読むことができました。
結論から言うと、安田氏は一応の説明責任を果たしたのではないかと思っています。シリア入りの動機、拘束された経緯、過酷な監禁生活などが時系列的に語っているあたり、その能力の高さが感じられました。
そして、その中で、日本政府と安田氏を拘束した武装組織との交渉の一部が述べられたことは、新鮮な驚きでもありました。
「日本側は金を払う用意がある」
(2015年)7月下旬に彼ら(武装組織のこと)から「日本側は金を払う用意がある」と言われました。
ついては何が目的なのかを言えと。彼らは金銭であるとか、特殊な武器、恐らく対空兵器だと思いますが、そのリストを送ったと。日本側からは武器の提供は無理である。金を払う用意はあるという言い方をしてきた。ついては、あなたたちはどういう組織であるのかということを聞いてきたと。
(安田純平氏記者会見より)
安田氏が拘束されたのは2015年6月ですから、拘束後1ヶ月で武装組織と日本政府との間で交渉が行われたことがわかります。
この時点では日本政府は武装組織に安田氏解放の条件を尋ね、武装組織側は金銭や武器をリストにして提示。日本政府は武器は提供できないが、金は支払う用意があると回答しています。
日本政府は身代金は絶対に払わないことを基本方針に掲げていますが、それを言ってしまうと交渉の窓口すらなくなってしまいます。交渉の余地があることをわからせるために、あえて「金を出す用意がある」と告げたのだと思われます。
そして、金を払う以上は払う先のこと聞くのは当然です。「あなたたちはどういう組織であるのか」と日本政府が質します。
しかし、武装組織の側としては、それを明かしてしまうと居場所等が突き止められて軍事行動を起こされる危険性があるので明らかにはしません。
日本政府も言わないことは十分に承知の上で聞いています。つまり、こういうやりとりをしながら時間を稼ぎ、情報収集に努めようという狙いがあるのでしょう。
武装組織の通訳役の人が「組織名を言わなくても、日本側は金を払うだろうか?」と安田氏に尋ねたようです。安田氏も「(日本政府が)時間稼ぎをしている間に私なりの対応であるとかというのを考えた」と言います。
「生存証明」の個人情報を書かされる
(2015年)12月7日に日本側に送るから個人情報を書けと言われ書かされました。彼らは「日本側から個人情報を書け」と言ってきたのは生存証明、私が生きている証明であろうと。
(安田純平氏記者会見より)
人質解放の見返りに身代金などを払うには、その人質が生きていることが絶対条件です。ですから、日本政府は、本当に安田純平氏なのか、生きているのかを証明せよと迫ったのでしょう。
日本政府としては安田氏の本人確認と生存確認ができて交渉を継続することができますし、武装組織としては、これで完全に身代金を取れると考え、安田氏の身の安全が確保できます。看守が安田氏に「今月中にお前は帰れるからな」と言ったとのことです。
日本政府から返事がなくなる
彼らは、生存証明を取ったということは払う方向になっていたはずが、私が個人情報を取った後に、(日本政府と)連絡が取れなくなったというのは何かメッセージをしたんじゃないのかと思ったようです。トイレに行く途中、頭を叩いたり背中を蹴ったりとか色々するようになってきました。
(安田純平氏記者会見より)
1回目の個人情報を書いた後、安田氏の妻や家族の質問に回答する形で何度か「生存証明」をしていました。しかし、日本政府から反応・返事がまったくなくなったようです。
安田氏は妻には「何かあったら放置しろ」と言い聞かせていて、実際、妻からの質問への回答にもその旨をわからない形でメッセージとして忍ばせています。
日本政府がなぜ返事をしなかったのかは述べられていませんので、理由はわかりません。
また、この後、安田氏の口から日本政府の対応について語られることはなくなりました。
例のオレンジ色の服を着て手書きのメッセージを持って写真を撮影したことも触れていますが、これに対する日本政府の反応なども語られていません。
武装組織の側から日本政府の対応について聞かされることがなくなったのかもしれませんし、本当は聞いていたけれども、これ以上話すと日本政府の交渉の手口を明かすことになるので口を閉ざしたのかもしれません。
トルコで解放
トルコの情報機関が襲撃して身柄を確保したとかそういうことではなくて、オペレーションというのは彼ら側から通報を受け、場所の指定があり、そこで身柄を引き渡すという連絡があって、それを目的通りに遂行した、オペーレーション成功というのがトルコのアナウンスしている中身かなと私は解釈しています。
(安田純平氏記者会見より)
そして、 拘束した武装組織の様子や悲惨な監禁生活の模様が長々と語られて、いきなりトルコでの解放の話になります。
トルコの政府組織が国境を越えてシリアにまで入り込んで、安田氏の身柄を確保しています。これは、しかるべき組織どうしで交渉がまとまったことを意味します。
しかるべき組織とはどこなのか、武装組織との交渉をまとめたのはどこなのか、は会見からはわかりません。
おそらく、カタール政府が武装組織と話をつけ、トルコが安田氏を迎えに行ったのではないかと推測します。
安倍首相が安田氏解放の際に、トルコ、カタールの協力を得た旨の発言をしていますし、来年(2019年)にカタール首長の来日が決定したことは、妙につじつまが合うと思うのですが・・・。
以上、『安田純平氏の記者会見で、日本政府と武装組織の交渉の一部が明らかに!』でした。