運転手への残業代未払い、受託契約をめぐるアマゾンとの対立、宅配便料金の値上げなど、「クロネコヤマト」でおなじみのヤマトホールディングは大きな問題に次々と直面しています。
さらに、今年7月に公表した法人向け引越しの料金過大請求です。まさに「クロネコ」ブランドのイメージ失墜で業績も悪化かと思いきや、大した影響もないようなので驚きです。
ヤマト引越し過大請求
宅配最大手のヤマトホールディングスは7月24日、子会社のヤマトホームコンビニエンスが法人顧客向けの引っ越し料金を過大に請求していたと発表した。2016年5月から2018年6月末までにサービスを提供した3367社の約8割にあたる2640社に対して過大請求があり、総額は約17億円に上る。
(引用:「東洋経済」)
ヤマトHDの説明では、過大請求が発覚したのは同社100%子会社のヤマトホームコンビニエンス。
データの残る2016年5月~18年6月、契約した3367社の引っ越し約12万4千件のうち、2640社の約4万8千件で計約17億円の過大請求があった。
本来の料金の2倍近くを請求したケースもあった。関係者によると、過大請求がなかった事業所は全国128のうち5カ所だけ。ほぼ全ての事業所で過大請求が確認された。
(引用:「産経新聞」)
ヤマトが法人向け引越しに参入した理由
今回、新たに問題となった法人向け引越し業務は、言うまでもなくヤマトの本業ではありません。本業は何と言っても小口荷物の配送、宅配便です。
宅配便は佐川急便、日本郵便はじめ大小様々な業者が乱立して競争が激化しているとはいえ、需要そのものはネット通販やTVショッピングで大きく増えています。
ただ、宅配便という事業は、最終的には運転手の量と質をいかに確保するのかがネックとなるビジネスモデルです。このことは、業界を開拓した草分け的存在であるヤマトは早くから見通していたはずです。
そのため、運転手に頼ることなく、学生やフリーターなどのアルバイトを活用できる業種への参入に乗り出します。
2000年代に入って、業務のIT化などで企業がネット環境の整った新しいビルに移転する需要は着実に増加しており、ヤマトがこの分野に狙いを定めたのも肯けるというものです。
誤算だった引越しへの参入
こうしてヤマトは2008年以降、法人向け引越しに参入しました。
企業秘密に関わる荷物の扱いや期日厳守が絶対である法人引越し業務では、宅配便の正確さで培った「クロネコ」ブランドは大きな営業力となったことでしょう。
しかし、誤算だったのは人件費の急騰でした。アルバイトの時給も急騰しました。企業の引越しですから当然、作業は深夜、週末、休日が基本となります。こうした限定された日時の人手の確保は困難をきわめ、必然的に時給・日給を上げざるをえなくなるわけです。
想定外の人件費増額分を過大請求で埋め合わせる採算のつじつま合わせが、現場の暗黙の了解のうちに日常的に行われていたものと考えられます。
「クロネコ」ブランド失墜も業績に影響なし
今回の過大請求の問題を、ヤマトの山内雅喜社長は「組織ぐるみではない」と釈明していますが、過去2年間の契約件数の約4割が全国各地で同じ手法で過大請求が行われていたという厳然たる事実があります。
社内文書や業務命令で明記していなければ「組織ぐるみではない」というのは、某国の首相の国会答弁のようで、聞いていて悲しくなります。今回の不正発覚で、「クロネコ」ブランドのイメージ失墜は計り知れないダメージを与えるものと思われます。
ところが、ブランドが失墜しても大きな影響はないだろうというのが大方の見方のようです。
小売業などでは、不正や不祥事が発覚するとイメージダウンによる売上減少というケースが多々あります。ただ、ヤマトは主力の宅配便で国内シェアのほぼ半分を握っています。
クロネコがなければ国民生活が成り立たないほどの物流網を構築しており、今回の不正によって引越しサービスの受注は休止するものの、ブランドイメージが低下しても業績には大きな影響を与えないというわけです。
宅配便ビジネスが巨大化したことが、無意識のうちに会社全体のおごりのようなものを招き、不祥事につながっていったとすれば、クロネコヤマトの生みの親である小倉昌男氏が草葉の陰で泣いてしまいます。
おわりに
小倉昌男氏はがんじがらめだった国の規制を緩和させ、郵便事業と戦い、消費者に真に役立つ宅配便を築きました。
こうした話は世間一般に広く知られていて、ヤマトへの共感と信頼の源となっています。
原点に戻れるかどうか。大好きだったヤマトの今後に注目したいと思います。
以上、『ヤマト引越し過大請求 「クロネコ」ブランド失墜も業績に影響なし?!』でした。