人知れず悩む人が多い便秘。
肌荒れ、ニキビ、膨満感、食欲低下・・・つらい症状です。
ついついドラッグストアに並ぶ便秘薬に頼ってしまったり、やたらと野菜類を食べたりしてしまいます。しかし、一向に改善しません。
こうした便秘に苦しむ人に朗報です。
昨年、消化器内科医が日本初となる『便秘治療のガイドライン』を作成し、従来の治療法を覆し、新しい処方薬を紹介しています。
便秘は「国民的病気」
厚生労働省のデータによると、日本で便秘の症状を訴える人は440万人を超えるといいます。いわば、「国民的病気」と言っても過言ではありません。
便秘に悩むのは女性が多いというイメージがありますが、年齢を重ねるにつれて男女ともに悩む人が増えていきます。80歳以上では、男女問わず、10人に1人を超す人が便秘の症状を抱えているとのことです。
しかし、ありふれた症状であるとともに、人知れず悩むことが多い症状だけに、医学界では真正面から「便秘治療」の本格的な研究はなされてこなかったといいます。言ってみれば、医学界の意外な盲点だったというわけです。
日本初の『便秘治療のガイドライン』を作成
そうした医学界の現状を憂い、関連する学会が協力して「慢性便秘の診断・治療研究会」が設立されました。
そして、この度、日本初となる『便秘診療のガイドライン』(正式名称・慢性便秘症ガイドライン2017)が作成・発表されました。
ガイドライン作成メンバーの横浜市立大学院医学研究科の中島惇教授は「産経ニュース」の取材でその意義を説明しています。
「便秘なんてたいしたことない」と思う人も多いが、とんでもない。ただの便秘だと思っていたら、実際は大腸がんなどの病気が隠れていることもある。
高齢化の進展で便秘患者はさらに増えるとみられるだけに、診断・治療の体制を早急に整える必要があった。
そもそも便秘とは?
ガイドラインではまず、「便秘とは何か?」を定義しています。便秘は個人差が激しく、「私は便秘だ」と訴える人が、そもそも本当に便秘なのかわからないと医師の間では言われてきました。
日本内科学会は「3日以上排便がない、または毎日排便があっても残便感がある場合」としていましたが、ガイドラインでは「本来なら体外に排出すべき糞便を、十分量かつ快適に排出できない状態」と改めて定義しました。
便秘に悩む人の中には「毎日排便しなければならない」と思い込んでいる人が少なくありませんが、週に3回程度の排便でも、腹痛や腹部膨満感、残便感などがなければ問題はない、ということです。
その上で、便秘治療に関して役立つ様々な知識を紹介し、検証しています。
例えば、便秘になりにくい人の特徴は、
・朝食を必ず食べる人
・ダイエットの経験のない人
・昼食をしっかりと食べる人
・1日に1500ミリリットル以上の水分を摂取する人
・一口の咀嚼(そしゃく)回数が30回以上の人
だとしています。
便秘治療の従来の治療法を覆す
刺激性便秘薬は大腸がんのリスク
ガイドラインでは、刺激性便秘薬の飲み方について警鐘を鳴らしています。
便秘薬は大きく2つに分けられます。1つは腸内の水分を増やして便を柔らかくして排出する「非刺激性」。もう1つは、大腸の働きを活発化させて排出する「刺激性」です。
ドラッグストアに並んでいる便秘薬の8割方が「刺激性」です。例えば、便秘薬として最もポピュラーな『コーラック』は「刺激性」の便秘薬です。ちなみに、同じコーラックでも『コーラックFirst』や『コーラックⅡ』は「非刺激性」です。
刺激性便秘薬は、急に便秘になった時の応急処置として服用するためのもので、「使用上の注意」にも『長期にわたり連続して使用しないこと』と明記されています。
刺激性便秘薬には「アントラキノン誘導体」という成分が含まれ、これを長期に連続して服用していると腸の内部が黒く変色する大腸メラノーシスを引き起こし、大腸がんのリスクが高まることがわかっています。
服用は「週に2回まで」が1つの基準で、それ以上は深刻な事態を引き起こしかねないと、ガイドラインでは警鐘を鳴らしています。
生活習慣改善は「弱い推奨」
便秘の治療といえば、適切な食事と適度な運動といった生活習慣の改善を真っ先に思い浮かべる人が多いと思います。実際、ヨーグルトなどのプロバイオティクスや食物繊維の摂取、腹壁マッサージなど、ネット上には改善策が満ちあふれています。
ところが、ガイドラインでは、生活習慣の改善は、積極的に勧めるほどの効果はないとして「弱い推奨」という表現になっています。
例えば、よく言われる食物繊維の食べることについては、「過剰摂取は便秘を増悪(ぞうあく・悪化させること)する」とし、多く食べ過ぎると便秘が悪化すると指摘しています。
もっとも、明らかに不足している場合の摂取には「効果はある」としていますので、適量であることがポイントのようです。悩み苦しんだ揚げ句に、食物繊維中心の食生活をおくってはならないということです。
また、運動や腹壁マッサージも医学的根拠のレベルは低い、としています。コストもかからず、副作用も皆無なので「やらないよりはやった方が良い」ものの、便秘解消の「プラス効果はあまり期待できない」としています。
さらに、大黄やセンナ、アロエなどの生薬は、飲み続けると大腸にトラブルをきたすことがあるので、「長期間の使用は避けるべき」としています。
便秘の新しい処方薬「ルビプロストン」
ガイドラインは、便秘治療の従来の対策を「医学的根拠がない」と退けています。
では、「医学的根拠のある」治療法とは?
ズバリ、「ルビプロストン(商品名・アミティーザ)」という処方薬をあげています。
このルビプロストンは、2012年に約30年ぶりに保険適用となった処方薬です。具体的には、医療法人社団関城会淀縄医院の公式サイトの説明を以下に引用します。
ルビプロストンは、小腸粘膜上皮細胞に存在するタイプ-2 クロライドイオンチャネル(ClC-2)に作用することで、腸管内への水分の分泌を促進し、便を軟らかくして排便を促す、まったく新しい機序の便秘の治療薬です。 従来から便秘の治療に使われている酸化マグネシウムが大腸内の浸透圧を高めて体内から水分を引き出し、便を軟らかくして排便を促すのと似ていますが、ルビプロストンが小腸に働くのに対して酸化マグネシウムは大腸に主に働く点が異なり、下痢にはなりにくく自然な排便になるのが特徴です。 国内での重度の慢性便秘症の方(自発排便回数が1週間に平均3 回未満の状態が6カ月以上持続し、器質性や二次性の便秘を除外した方)を対象に行った治験では、排便回数をほぼ毎日に改善することが示れました。さらに約1年間の長期第3相臨床試験では、長期間の投与で効果が減弱せず、薬剤に対する耐性が生じにくいことが確認されています。
残念ながら、この薬はドラッグストアなどで市販はされていません。病院で処方してもらう必要があります。
また、ルビプロストンは、現状では薬価が高い(1錠156.6円)ため、既存の便秘薬(1錠6円前後)を服用してみても十分な効果が得られない場合に使用するのがいいかもしれません。
ただし、気分が悪くなったり、逆に下痢になったりという副作用も報告されていることをお知らせしておきます。
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以上、『日本初『便秘診療のガイドライン』は従来の治療法を覆し、新しい処方薬を紹介!』でした。