『枝野幸男、魂の3時間大演説』は憲政史に名を残す名演説か?

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出典:amazon.co.jp

 

一時期、アマゾンで売上1位となっていた『枝野幸男、魂の3時間大演説』を、遅ればせながら読んでみました。

 

これは、立憲民主党の枝野幸男代表が衆議院で行った安倍内閣不信任案に対する趣旨弁明演説をそのまま書籍化したものです。

 

2時間43分という演説時間の長さが話題となりましたが、その内容は格調高く、憲政史に残る名演説と評する向きもありましたが・・・。

 

  

『枝野幸男、魂の3時間大演説』

2018年7月20日、立憲民主党、国民民主党、無所属の会、共産党、自由党、社会民主党の野党は共同して、安倍内閣不信任決議案を提出しました。

 

決議案の中身は、「本院(衆議院のこと)は、安倍内閣を信任せず。右、決議する。」という簡単明瞭なもの。それでも、これが賛成多数で可決されれば、憲法の規定により、内閣は総辞職するか、衆議院を解散しなければなりません。したがって、とても重い決議なのです。

 

この重い決議案を提出する者は、その理由を明らかにする必要があります。それが、内閣不信任案趣旨弁明演説です。

 

この内閣不信任案趣旨弁明演説を立憲民主党の枝野幸男代表が行いました。時間にして2時間43分。記録が残る1972年以降で最長となる演説でした。

 

その演説をそのまま文字起こしをして書籍化されたのが『枝野幸男、魂の3時間大演説』です。

 

 

臨場感あふれる読みやすい構成

この本は国会中継動画から聞き取った音声を、ほぼそのまま文字起こししたものです。編集者の手がほとんど入っていません。

 

そのため、演説が行われた衆議院本会議場の雰囲気の一端が伝わってきて、臨場感あふれる構成となっています。

 

枝野代表:・・・・決断をさせていただけるのですか。

(場内、野次で騒然としたため、枝野氏は30秒ほど黙り込む)

大島議長:趣旨弁明を続けてください。

枝野代表:黙らせてください。

大島議長:続けてください。

枝野代表:黙らせてください!(野次を注意しない議長に対して怒気を孕んだ口調で)議長!

大島議長:ご静粛に。どうぞ続けてください。 

枝野代表:黙らせていただけますか。議長、不適切発言に対しては指導していただきたいと思います。

大島議長:ご静粛に、ご静粛に。どうぞ続けてください。

枝野代表:ミズタ議員(編集部注・自民党の杉田水脈議員のことと思われる)、黙っていていただけますか。 

 

 政治家の演説集はいろいろと出版されていますが、その場の雰囲気を感じ取ることはできません。しかし、上記のような構成だと、自民党が大声で野次を飛ばし、枝野代表が議長を使って応戦している様子を思い描くことができます。

 

こうしたシーンが随所に見られ、それだけでも読み応えはあるというものです。

 

さらに、演説の中に出てくる法案名や政治・行政用語について、脚注で解説がなされているのも、全体を通して読みやすくしています。

 

 

政治家・枝野幸男の力量

国会の本会議場での演説は、政党の政策担当部局が原稿を作成し、議員が若干の手直しをした上で読み上げるのが通常のパターンです。

 

今回は3時間近い演説ですから、立憲民主党の事務局はさぞかし大量の原稿を執筆しただろうと思いきや、さにあらず。

 

枝野代表が準備したのは、ポイントは箇条書きにしたレジュメのみでした。量にしてA4が6枚。

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枝野演説のレジュメ

それで、これだけ「読める文章」になっているのですから、たいしたものです。原稿を読み上げていないのですから、当然、「年金なんたら便が・・・」といういい加減さも出てきますが・・・。

 

原稿なしで3時間もの演説を論旨明快にできる力量をもった政治家は、私は他に知りません。

 

 

実務家・枝野幸男が哲学を語る

私が持っていた枝野幸男という政治家のイメージは、実務家です。大上段に構えて哲学を論じるタイプではなく、目の前の課題を実務的に処理する能力に長けた政治家です。

 

こういうタイプは上の者からすれば使いやすく、民主党政権時代は官房長官や経済産業大臣など、実務能力を必要とするポストを与えられました。

 

ですから、法律・制度や政策課題については細部まで深く理解して語ることはできるけれども、哲学や理念については語ることのない政治家と考えていました。

 

ところが、今回の演説では、大上段に構えて哲学を語っているではないですか。しかも、左派・リベラルのレッテルを世間からは貼られている枝野代表が「私こそが保守本流」と言っているのです!

 

保守の本質とは何か。それは、人間とは不完全な存在であるという謙虚な人間観であります。

人間は、すべての人間が不完全なものであるから、どんな政治家が、どんな良い政治をやろうとしても、完璧な政治が行われることはありえない、常に政治は、社会は未完成、不完全なものである。それが、人間は不完全なものであるという謙虚な姿勢に基づく保守の一丁目一番地です。

こうした謙虚な人間観に基づき、今生きている私たちの判断だけでは間違えることがある、したがって、人類が長年にわたって積み重ねてきた歴史の積み重ねというものに謙虚に向き合い、人類がその中で積み重ねてきた英知というものを生かしながら、それを改善をしていくにあたっても、間違っているのではないかという常に謙虚な姿勢を持ち、そして、自らを省みながら一歩ずつ世の中を良くしていく、これが保守という概念の本質であります。

・・・であるので、私こそが保守本流であるということを、自信を持って日頃から皆様方にお訴えをさせていただいているところであります。

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政治思想的にこれが正しいのかはわかりません。ただ、中身はよく理解できますし、共感もしました。少なくとも、自民党所属だから保守、憲法改正に賛成だから保守、日本が世界で一番で中国・韓国はダメな国と訴えるのが保守、という昨今の風潮と比べれば深みの次元が異なると言わざるを得ません。

 

当然、自民党席からはごうごうたる野次が飛んできますが、枝野代表は「こうした保守の本質をまったく勉強せずに自称保守を名乗っている人たちを相手にしてもしようがないんですが・・・」と応じています。

 

ちなみに、「穏健保守という日本語もあり得ません。なぜならば、保守とはもともと穏健なものであります」と穏健保守を標榜する国民民主党にも牽制球を投げ込んでいます。

 

 

憲政史に名を残す名演説か?

この本の冒頭に編集者が「この演説は、その正確さ、その鋭さ、そして格調の高さ、どれをとっても近年の憲政史に残る名演説といってよいものだろう」としています。

 

自民党の野次に当意即妙に切り返し、時には闘志むき出しにエキセントリックな言葉を浴びせかけるのは枝野代表の持ち味ですが、それが過剰に表れていたとも感じました。

 

聞かれたことに答えるのは大臣の仕事、役割、責任であって、聞かれたことを、だらだらと話している安倍総理と、みそとくそを一緒にしないでいただきたい。 

 

 仮にも一国の総理大臣を「くそ」呼ばわりしては、格調が高いとはお世辞にも言えません。思わず顔をしかめたくなる場面です。

 

「議場で戦っているのだから仕方ない」と言うかもしれませんが、有権者も聞いています。安倍政権への憎悪むき出しの姿勢が目につきすぎると、それを聞く与党議員やその支持者は余計にかたくなになります。ましてや、態度を決めかねている無党派層は嫌気がさしてしまいます。

 

編集者は格調の高さを賞賛していますが、この点が残念といえば残念です。

 

逆に、この点がもう少し緩和されていれば、同じく原稿なしで演説し、時の内閣に痛快無比な一撃を与えた尾崎行雄の「桂内閣弾劾演説」に肩を並べたと言えば言い過ぎでしょうか。

 

少なくとも、そうした可能性を秘めたものであったと思っています。

 

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緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」

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  • 作者: 解説上西充子,解説田中信一郎,ハーバービジネスオンライン編集部
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  • 発売日: 2018/08/09
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おわりに

国会での野党の発言は一部だけ取り上げられて面白おかしく報じる一方で、安倍首相はじめ大臣のいい加減な発言は、わざわざ「理解しやすいように」咀嚼して報じるという姿勢に終始する大手メディアでは、今回の枝野演説は聞くことはできません。

 

ですから、今回の書籍化の意味は大きいですし、何よりも、是非、一度、目を通していただければと思います。

 

以上、『『枝野幸男、魂の3時間大演説』は憲政史に名を残す名演説か?』でした。