子どもの頃に心弾ませて読みふけったドカベンが最終回を迎えると知り、何十年かぶりに『週刊少年チャンピオン』を買って読みました。
なんと、1972年から46年も続いていたのですから驚きです。
今回、ゆっくりと少年時代の余韻に浸りながらページをめくっていました。数十年も遠ざかっていますので、ついていけるかどう心配でしたが、読み終わってみるととても嬉しくなりました。
大好きだった山田も岩鬼もあの頃のままだったからです!
ドカベンの最終回
水島新司氏の野球漫画『ドカベン』の最終回が、2018年6月28日発売の『週刊少年チャンピオン』に掲載されました。
1972年に連載スタート。46年の歴史にピリオドが打たれました。単行本のシリーズ累計は205巻といいますから、超大作です。
水島氏が1973年から『ビッグコミック』に連載してきた、野球漫画「あぶさん」も2014年に終了しており、水島氏の連載漫画はなくなることになります。何だかとっても寂しいですね。
「ありがとうドカベン。巨匠劇筆最終回特別号」と題された『少年チャンピオン』では、巻頭カラー12ページを含めて計40ページで掲載されています。
また、水島新司氏からの読者への特別メッセージ、「ドカベン」シリーズの46年間の歴史が綴られた年表も載っていました。
この年表を眺めているだけでも、少年時代の様々な場面が思い起こされ、あっという間に時間が過ぎるというものです。
ドカベンは野球の先生だった
小学生時代、野球少年だった私は、『少年チャンピオン』に掲載されているドカベンを読むのが楽しみで仕方ありませんでした。ただ、厳格だった父は漫画を買うお金をくれるはずもなく、毎週、近所の本屋で小さくなって「立ち読み」していました。
立ち読みといっても単にストーリーを追うのではなく、一言一言を頭に叩き込むという感じで真剣そのもの。本屋のご主人も「そんなに真剣に読まれたら、怒るに怒れない」と嘆くほどでした。
強肩強打の山田太郎、悪球打ちの岩鬼正美、アンダスローのイケメン里中智といった個性的なキャラクターが魅力となっていることはもちろんですし、私もそれに惹かれていましたが、それに加えて、野球を教えてくれる「先生」の役割でもありました。
同時代の野球漫画といえば『巨人の星』や『侍ジャイアンツ』も大人気。でも、これらは「魔球」などの非現実的な要素がとても多く、文字通りマンガでした。
ドカベンにもその要素は少なからずあるものの、投手・打者の心理、配球の読み合い、見落とされがちなルールなど、野球のリアルな描写はとても新鮮でした。実際に野球をしていて、「ドカベンで山田はこうだった」「里中はこう考えていた」と何度思ったことかわかりません。
また、野球漫画ではほとんど登場してこない審判にもスポットがあたっていたことも記憶に強く残っています。審判が山田らにルールを説明したりして、普段は気がつかないような細かいルールを知ることもできました。
ドカベンのシーンが高校野球で再現
50歳前後の人と雑談していて野球の話になると、「ドカベンで野球を学んだ」という人が結構多いのに気づくことがあります。
これはオジサン世代だけかと思いきや、さにあらず。高校球児たちもドカベンでしっかりと勉強しているようです。
ドカベンの有名なシーンの1つに「ルールブックの盲点の1点」があります。対白新高校戦、一死満塁、スクイズがフライとなり併殺で無得点、チェンジのはずが明訓に1点が入るというシーンです。
このシーンが2012年、夏の甲子園大会で済々黌高校vs鳴門高校戦で再現されているのです。
7回裏、済々黌の攻撃。一死一・三塁で、ライナーを捕球した遊撃手が一塁に送球してアウト(併殺)を取りましたが、その前に三塁ランナーは本塁を走り抜けていました。にもかかわらず、守備側の鳴門ナインはスリーアウト・チェンジだとしてベンチに帰ってしまったため、済々黌の得点が認められました。
これは、併殺が成立する前に三塁走者が本塁に到達しているので、三塁に送球してアウトを取らないと得点となってしまうということです。
生還した済々黌の三塁走者だった選手は、ドカベンのシーンをよく覚えていて、あえて狙ったプレーだったとインタビューで明かしています。まさに、ドカベンの真骨頂ここにあり、です。
山田も岩鬼もあの頃のままだった!
山田や岩鬼、里中、殿馬らの言葉から野球を学んでいったわけですが、もう一つ、心に残るのは山田と岩鬼の友情です。
どんなに大活躍してもいつも謙虚にふるまう山田。一方、自らをスーパースター、天才児と称してハチャメチャな言動をとる岩鬼。
両極端な二人ですが、実は互いにその実力を認め合い、リスペクトしあっています。こういう関係を、真の男の友情というのだと子ども心に思ったものでしたし、それと感じる場面はいくつも脳裏に今も刻まれています。
子どもの頃に感じた二人の友情。最終回でもしっかりと描かれていて、とても嬉しく感じました。最後の最後で大好きだった男の友情が描かれるなんて・・・。書き手と読み手の心情が見事にシンクロしたとはこういうことを言うのでしょうか。
山 田:それより岩鬼、アドバイス、サンキュー。あの忠告で打てたホームランだったよ。
岩 鬼:自身で気づくのが1番や思たけど、見るに見かねてっちうやっちゃ。教えて打てるうちはまだまだ望みありやな。
山 田:でもアッパースイングにはびっくりしたな。
岩 鬼:力のない奴が少しでも遠くに飛ばそーと思たら、高く上げて風の力を借りなな!それこそがアッパースイングや。
山 田:岩鬼、おまえのそのケタ外れの発想で楽しく野球をやれた。思い出すな、おまえと初めて会った日を。思えばあの日から始まった。
岩 鬼:おまえが鷹丘中学に転校してきた日や。
(『週刊少年チャンピョン』より引用)
こうして、山田と岩鬼の最初の出会いの回想シーンで幕を下ろしたのでした!
おわりに
清原和博は「ドカベンから4番打者の心得を学んだ」、イチローは「殿馬と一緒にプロでプレーしたい」と一流のプロ野球選手にも愛されたドカベン。
水島新司氏のメッセージには「そしてまたいつの日かお会いできる日を楽しみにしております」とありました。
次回作はあるのでしょうか?あるとすれば、山田や岩鬼は指導者として登場でしょうか?
でも、このまま終わってしまうのも、あり、だと思います。みんなの記憶に残っているのですから。
以上、『ドカベンの最終回を買って読んだ。山田も岩鬼もあの頃のままだった!』でした。