シリアで3年近く拘束されていた日本人ジャーナリストの安田純平さんが、何の前触れもなく突然、解放されました。
まずは、安田さんの無事を喜びたいと思います。
しかし、なぜ、今のタイミングで突然の解放となるのか、大いに疑問に感じるところです。どうやら、その答えは、トルコ・イスタンブールで起きたサウジ人記者殺害事件と関係がヒントになりそうです。
安田純平さん、突然の解放
菅義偉(すがよしひで)官房長官は23日深夜、首相官邸で緊急記者会見し、内戦下のシリアに2015年に入り、国際テロ組織アルカイダ系の「シリア解放機構」(旧ヌスラ戦線)に拘束されていたとされるフリージャーナリスト安田純平さん(44)=埼玉県入間市出身=とみられる男性が解放され、トルコ国内で保護されているとの情報があると発表した。旧ヌスラ戦線の関係者も23日、本紙の電話取材に「解放は事実だ。カタールが仲介した」と認めた。 (「東京新聞」より引用)
何の前触れのない突然の解放劇にとても驚きました。そして、なぜ、今この時期での解放なのか? との疑問がわいてきます。
その疑問を解くヒントは、東京新聞から引用した記事中の旧ヌスラ戦線関係者の「カタールが仲介した」との言葉にあります。
安田純平さんの身代金はカタールが支払った?
人質事件が起きると、決まって次のような声明が発せられます。
「テロリストとは交渉しない」
これは、身代金を要求したり、政治的要求を突きつけるテロ組織に対し、世界各国が口を揃えて発するメッセージです。
テロリストの要求を1度でも飲んでしまえば、味をしめて次から次へと同じような事件を起こすことになるからです。
しかしながら、その人質たちの一部は解放されています。事実、安田純平さんは無事に解放されました。なぜか?水面下で巨額の身代金が支払われていると理解するのが一般的でしょう。一説には1人当たり数億円から30億円が支払われるとも言われています。
もちろん、「テロリストと交渉」したことを認めるわけにはいかないので、各国政府は身代金の支払を表向きは絶対に否定します。安田さん解放に際しての日本政府も「解放に条件はなく、身代金の支払いもない」と正式にコメントしています。
しかし、在英のシリア人権監視団のアブドルラフマン代表は安田さんの解放について、「多額の身代金が支払われた。身代金は日本ではなく、カタールが支払った」と述べたと時事通信は報じています。
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なぜ、カタールが仲介するのか
カタールはペルシャ湾岸に位置し、原油や天然ガスを豊富に産出することで1人当たりのGDPが世界で最も高い国の1つです。
ただ、人口は自国民が30万人の小国です。群雄割拠する中東地域の中で埋没しないよう、豊かな資金力を活かしてイスラム主義組織「ムスリム同胞団」を支援するなど、独自の外交戦略を展開しています。
シリアでは、アサド政権に反抗するイスラム系武装組織をカタールは支援しています。安田さんを拘束していた「シリア解放機構」にも、カタールは資金や物資を送り続けていたものと考えられます。
カタールはいわばこうしたイスラム系組織のスポンサーとなっているわけですから、その組織を通じて安田さん解放に向けた働きかけを行うことは十分に可能だったということです。
カタール、トルコ、サウジアラビア
こうしたカタールの独自の動きは、一貫して地域大国のサウジアラビアの神経を逆なでしてきました。
「ムスリム同胞団」をテロ組織に指定し、それを支援するカタールを「テロ支援国家」と非難するサウジアラビアは2017年6月、エジプトなどとともに国交を断絶した上、経済制裁を実施して兵糧攻めにしています。
さらにサウジアラビアは、カタールとの間に7.5億ドルをかけて運河を掘り、陸続きの国境をなくして孤立させるという驚くべき計画を発表しています。
こうしたカタールの苦境に手をさしのべたのがトルコ。サウジアラビアと国交断絶した後も食糧支援などを行って支えてきました。
カタールもその厚意に応える形で、トルコに5億ドル相当のジェット機をプレゼントし、トルコ通過リラの暴落の際には総額150億ドルの支援を行っています。
まさに、カタール・トルコvsサウジアラビアの構図が出来上がっているのです。
サウジ人記者殺害事件との関係
カタールと敵対するサウジアラビアは現在、トルコ・イスタンブールのサウジ領事館で起きたサウジ人記者殺害事件で揺れに揺れています。
サウジの実質的な最高権力者であるムハンマド皇太子が殺害を命令したのではないかとの疑惑があり、国際社会の厳しい視線を浴びています。
また、トルコ政府はこの事件の捜査に積極的で、独自に入手している殺害時の音声データなどをもとに真相解明に懸命になっています。このトルコ政府の姿勢も、サウジアラビアを余計に窮地に追いやっています。
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一方、カタールは安田純平さんの解放のために仲介し尽力したことで、国際社会から大きな賞賛の声が寄せられることが予想されます。
政府批判を行った自国人のジャーナリストを殺害したサウジアラビア。
自国とは無関係な日本人ジャーナリストの解放に尽力したカタール。
この見事なコントラストを作りだす絶好の機会が、今のタイミングだったと考えれば、すべてが理解できます。
サウジアラビアの国際的地位を相対的に低下させ、自らは人命を重んじる国としての名声をあげることに成功すると仮定すれば、リスクを冒してイスラム系組織と交渉し、何億円もの身代金を肩代わりすることなど、カタールにとっては痛くも痒くもないということです。
以上、『安田純平さんの突然の解放は、サウジ人記者殺害事件と関係があった?!』でした。