シンガポールで開催された歴史的な米朝首脳会談。
アメリカのトランプ大統領は大統領専用機「エアフォースワン」に乗ってきましたが、北朝鮮の金正恩委員長は自らの専用機「チャムメ1号」ではなくて、中国の旅客機に乗ってやってきました。
国家の威信とかメンツに必要以上にこだわる北朝鮮・金委員長が、あえて中国の旅客機をチャーターしたのはなぜなのか、その理由について考えてみました。
金正恩は中国の旅客機に乗ってきた
北朝鮮の金正恩委員長は、シンガポールで開催された米朝首脳会談に出席するため、中国国際航空(エアチャイナ)を使用しました。
金委員長が乗ったのは、中国国際航空のボーイング747型機。普段は一般の旅客機として使われていますが、中国の習近平国家主席が専用機としても使用しています。
また、金委員長が乗った中国国際航空機の他に、金委員長の専用機「チャムメ(おおたか)1号」と輸送機も並行して飛んでいます。
「チャムメ1号」には金委員長の妹の与生(ヨジョン)氏をはじめとする北朝鮮政府の随行員らが搭乗し、輸送機には金委員長専用の防弾リムジンや移動式トイレが積み込まれた模様です。
ちなみに、中国から旅客機をチャーターした費用ですが、ゆうに1億円はかかるものと推察されます。ただ、シンガポールでの宿泊費すら自前で支払えないのですから、チャーター費は中国政府が肩代わりしたことは確実でしょう。
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自国の専用機を使わないデメリット
世界各国の国家元首が外国を訪問する際は、必ず政府専用機を使用します。各国の政府専用機は国力を象徴し、威信と自尊心そのものと見なされることもあります。
北朝鮮は、必要以上に国の威信とかプライド、メンツにこだわる国です。核兵器を保有し、世界が一目置いていると自国民に宣伝している国です。
その北朝鮮が、偉大なる最高指導者である金正恩委員長が外国の旅客機を借りなければならないというのはメンツ丸つぶれというものです。
また、外国機を使った場合、機内での打ち合わせの内容が盗聴されるという危険性すらあります。
これらのデメリットを重々承知の上で、中国機をチャーターした理由はどこにあるのでしょうか。
金正恩が中国旅客機に乗った理由
①専用機「チャムメ1号」は老朽化
金正恩委員長の専用機「チャムメ1号」は旧ソ連が開発したイリューシン62型。1963年が初飛行で、1995年には生産が終了しています。
北朝鮮が同機をソ連から購入した時期は1980年代後半とされています。すでに30年以上も飛び続けていることになり、老朽化による安全性に疑問が持たれていました。
今年(2018年)5月の中国・大連への訪問時には金委員長が搭乗しましたが、平壌ーシンガポールの距離(4,800km)を考えて、より安全な方法を選んだといわれています。
②トランプ大統領と対等の立場を演出
日本の外務省で長く外交儀典を担当した人の話によると、首脳会談のようなビッグイベントでは「会談の中身もさることながら、見た目の形式は内容と同じくらい重要だ」と言います。
米朝首脳がシンガポールの空港に到着するシーンは、世界各国のメディアが競い合うようにその映像を配信します。トランプ大統領が最新鋭の「エアフォースワン」で颯爽と登場するのに対して、金委員長が30年以上も前の骨董品のような航空機で現れたとしたら、もはや最初の心理戦の部分で1本取られたということになってしまいます。
金委員長が実際に乗った中国国際航空のボーイング747型機は、「エアフォースワン」と同型機です。これだと、米朝に「格」の差が表面化することはありません。
③中国との同盟関係を誇示
北朝鮮はメンツの面からも専用機にこだわるものと考えられていました。実際は中国機を借りることになりましたが、そのことで、最高指導者・金正恩の生命を預けるほど、中国と北朝鮮の関係は強固だということをアメリカに誇示する格好となりました。
また、中国からすれば、習近平国家主席も使用する航空機を貸し出したことで、北朝鮮の後ろ盾は中国だと誇示することができたことになります。
④航空機テロの対策
今回のシンガポール訪問には、平壌から計3機の航空機を飛ばしています。中国国際航空の旅客機、金正恩委員長専用機、輸送機です。
特に、中国機と専用機とは同時に飛ばしています。これは、航空機テロを避けるため、金委員長がどちらに搭乗しているか分からなくしているのだと推察されます。
金委員長は北朝鮮国内を自動車で移動する際も、目的地へ向かうのに南回りで行く車列と北回りで行く車列を同時に出発させ、自分がどちら回りのどの車に乗っているのかを分からなくさせていることが確認されています。
北朝鮮国内ですらこれほどの用心ぶりです。ましてや、他国の領空を通過していくことは恐ろしくて仕方なかったでしょう。
実際、中国機のタラップに姿を見せるまでは、専用機の方に乗っていると強く主張する向きもありました。
おわりに
金正恩委員長が中国機をチャーターした理由は、上記④のテロ対策が有力でしょう。航空機テロへの恐怖心は先代譲り。父の金正日総書記は、海外に行く際にも絶対に航空機には乗ろうとはしませんでした。
①と②も十分に考慮されているでしょう。ただ、③はあくまで結果論であって、国際社会の受け止め方次第です。
それにしても、かつて、北朝鮮空軍は精鋭といわれていました。東西冷戦の最中には共産主義陣営の一員として、ベトナム戦争では世界最強のアメリカ空軍と、第4次中東戦争では中東屈指のイスラエル空軍と互角以上の戦いを見せていました。
ところが、今となっては、自国の最高指導者をも外国に「お連れ」できない状態。彼らにとっては満天下に恥をさらした格好です。過去の栄光にしがみついた老軍人たちが、良からぬ事を考えなければいいのですが・・・。
以上、『【米朝首脳会談】金正恩が自らの専用機ではなくて中国の旅客機に乗ったのは、なぜ?』でした。