センバツ高校野球 公立校優遇策の「21世紀枠」はもう廃止しては?

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センバツ高校野球が真っ最中です。

 

センバツの特徴の1つに「21世紀枠」があります。今年出場の3校は、ともに初戦で敗退。都道府県大会や地区大会での実績が評価されて自力で出場したチームとは、歴然とした実力差がありました。

 

21世紀枠は公立高校救済の側面があります。私立強豪校に公立校を立ち向かわせたいという大人の思惑が見え隠れします。

 

20年近くたち、特色ある学校も出尽くしの感があるといいます。21世紀枠は、もう廃止してはどうでしょう?

 

 

 

21世紀枠とは?

2018年3月のセンバツ高校野球大会の21世紀枠で出場した3校は、ともに初戦で敗退しました。3校の試合を総合すると、得点2・失点29といずれも大差の試合でした。

 

過去の21世紀枠出場校の成績は、17勝48敗、勝率.261となっています。

 

21世紀枠という制度は、これまでもよく議論になってきました。都道府県大会や地区大会で勝ち上がり、自力で出場を決めた学校とは歴然とした実力差があるからです。

 

21世紀枠は、2001年から導入されました。選考基準は以下の通りです。

 

①秋季都道府県大会のベスト16以上

②以下の例のいずれかにあてはまる学校

  • 少数部員、施設面のハンディ、自然災害など困難な環境の克服
  • 学業と部活動の両立
  • 近年の試合成績が良好ながら、強豪校に惜敗するなどして甲子園出場機会に恵まれていない
  • 創意工夫した練習で成果を上げている
  • 校内、地域での活動が他の生徒や他校、地域に好影響を与えている

 

 

21世紀枠は公立校ばかり

この選考基準でいうと、都道府県大会のベスト16は、地方によっては2~3勝すれば達成できます。ベスト16から上にいくのが大変なわけです。

 

例示されたものでいうと、例えば、「地域の清掃活動に積極的に参加」や「全校生徒が赤十字の会員で青少年赤十字モデル学校に指定されている」といったユニークな理由で選考されたケースがあるにはあります。

 

ただ、最も多いのが、「文武両道を実践」「県内有数の進学校」という理由です。地方にいけば、この理由を満たす学校は、藩校をルーツにもつ公立高校ということになります。公立進学校です。

 

実際、21世紀枠での歴代出場校49校中、私立高校で選出されたのは2013年の土佐高校(高知)の1校のみ。あとの48校はすべて公立高校となっています。

 

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圧倒する私立高校

21世紀枠で公立高校ばかりを選出してきた背景には、特待生で有力な選手を全国から集める私立高校の存在がありました。

 

1990年代以降、人口減少と少子化の影響によって、私立学校の経営は大変厳しくなってきています。子どもの数が減っていくなかで、いかに生徒を確保し、経営を安定させるかが課題となりました。

 

手っ取り早い方法は、部活動に力を入れて全国大会に出場することです。なぜなら、メディアが取り上げて学校の存在感が全国に行き渡るからです。

 

なかでも、甲子園は、NHKが全試合放送し、春は毎日新聞、夏は朝日新聞が大きく扱います。甲子園は学校にとって最大の宣伝媒体となっているわけです。

 

実は、私は、私立学校の評議員をやっているのですが、生徒募集が会議の議題になると決まって野球部の強化が話し合われるのも、このためです。

 

その結果、甲子園に出場する高校のほとんどが私立校となりました。2017年夏の甲子園では、49校中41校が私立校でした。公立校だと逆に話題になるくらいです。

 

 

公立校優遇策の「21世紀枠」

入学金や授業料を免除する野球特待生を全国から集めて、ますます力をつける私立。

 

制約された環境で力の差が歴然となる一方の公立。

 

私立高校ばかりが出場する大会では、「野球を教育の一環」とする以上、好ましくはないことは明らか。何とか「教育の一環」というタテマエが成り立つ工夫はできないものか?

 

こうした事情で発案されたのが、「21世紀枠」だと容易に想像できます。「21世紀枠」で選ばれた公立校(その多くが進学校)が優秀な頭脳を駆使し、様々な創意工夫によって、私立強豪校に立ち向かう姿を想定しているのだと思います。これこそが、「教育の一環」たる高校野球だと言わんばかりです。

 

「公立進学校vs私立強豪校」の構図を作りたいのが本音でしょう。もちろん、高校野球ファンは喜びます。日本人は判官贔屓ですから。

 

ただ、そんな「教育の一環」というタテマエも、「公立進学校vs私立強豪校」の構図も、現実は無残にも打ち砕いてきたのが過去の経緯です。

 

2018年センバツの21世紀枠で出場した膳所高校(滋賀)は、対戦相手のデータ分析にもとづいて守備陣形をとって話題となりました。ただ、データ通りの打球が野手の真正面に飛んできたものの、打球のスピードについていけずに捕球し損ねるシーンもありました。

 

膳所のケースは、高校野球の可能性を示すものではありますが、厳然たる事実として、打球を処理できない、10点の大差での敗北、が物語っています。

 

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高校野球部の現場では

2010年のセンバツで、21世紀枠で選出された向陽(和歌山)と対戦し、1-2で敗れた開星(島根)の野々村直通監督は試合後、「末代までの恥。切腹したい」と述べ、話題となりました。

 

野々村氏は21世紀枠について、後にこう語っています。

 

21世紀枠をさぞかし恨んでいると思われるんですけど、僕は、03年に隠岐(島根)が出た時は大喜びでしたから。あそこは練習試合ひとつするのも大変。移動に時間も金もかかる。震災でほとんど練習できなかったチームとか、本当に出すべき高校に対しては大賛成。ただ、文武両道で出す、というのは、ちょっと待てよという気がするんです。

地方の公立進学校に進む子は、親の経済力も違うし、いわばエリート。なんらマイナスはない。その上、野球でも優遇してやる必要があるんでしょうか。そういう学校こそ実力で出ないと。

 

かつて、東大合格者を出している公立進学校のエースは、秋の県大会で敗れた後、受験勉強に専念したいと野球部を退部しました。しかし、21世紀枠で選出されたため、復帰。そして、センバツ大会の後、再び退部したといいます。

 

3年間やってこその文武両道ではないんですか。あとね、21世紀枠の可能性が出てくると、急に町の清掃活動を始めたりするチームもあるんです。 

 

野々村氏の言葉は現場を知る人だけに重いです。現場では、21世紀枠の意図したこととスポーツの本質との 間でズレが生じているのかもしれません。

 

また、21世紀枠の基準とは縁遠い球児たちからすれば、たまったものではありません。「その分の枠を空けてくれ」というのが本音だと思います。「文武両道」「名門」「伝統」といった大人が好む基準で不公平さが正当化されるのですから、どこが「教育の一環」なのかという指摘ももっともです。

 

 

まとめ

私は、いわゆる公立進学校の出身です。一度、母校が21世紀枠で出ましたが、何かスッキリとしませんでした。ただ、昨年夏は県大会を勝ち抜いて甲子園出場、一回戦突破、今年のセンバツも地区大会ベスト4で出場です。胸を張って応援しています。

 

スポーツには公平さが最も求められます。野球少年の夢である甲子園という舞台は、最もそれが求められなければなりません。

 

なのに、大人が勝手に「公立進学校vs私立強豪校」という構図を作りたがって、あえて不公平を持ち込んでしまうところに違和感を感じるのです。

 

「21世紀枠」も20年近くになりました。野球専門誌の記者は言います。

 

17年もやっていると、選ぶ高校も一回りも、二回りもしている。対象も限られてきて、もう推薦したいところがないという都道府県もあると聞きます。

 

もう廃止してはどうでしょうか。大人の実験はもう十分です。

 

どうしても残すというのなら、地区大会で敗退したチームの中から優秀な選手を集めてベストナインを編成させてはどうでしょうか。そう、箱根駅伝の「学連選抜」方式です。セカンドチャンスを与えるという意味で、「教育の一環」というタテマエにもぴったりだと思うのですが。

 

以上、『センバツ高校野球 公立校優遇策の「21世紀枠」はもう廃止しては?』でした。