これは、2017年10月に施行された衆議院議員選挙に希望の党公認候補として立候補し、落選した者の手記である。手記の執筆者は、民進党公認候補予定者として活動していた
◆民進党 希望の党へ合流決定
そして翌9月28日。衆議院解散後、直ちに民進党両院議員総会が開催される。
その模様をユー・チューブで見ようかとも思ったが、長時間に及ぶことは確実なので、街頭活動を優先する。
午後4時頃くらいから、マスコミからかかってくる携帯電話が鳴り止まない。
「民進党の希望の党への合流が決まりましたが、コメントをお願いします」
「えっ、もう決まったの」
「はい、全会一致で」
急いで事務所に戻り、事実確認を行った。要は、民進党として比例代表を含め公認候補を擁立せず、希望の党に全員が公認申請を行うことが、午前の常任幹事会で了承され、午後の両院議員総会にて全会一致で承認された。
両院議員総会の模様を映像で見ると、みんな何か晴れやかな表情をしている。この類の話には必ず異論・反論を唱える某議員も、前原代表と笑顔で握手している光景すらあった。
両院議員総会での前原代表のスピーチは、私には十分納得のいくものであった。民進党として希望の党と競合する形になれば、非自民の票が分散されて自民党を利するだけになる。
安倍首相への不信感が高まっているのに、どの党も自民党に代わる選択肢になっていない状況を打破し、小池都知事とともに明確な理念・政策の旗を掲げ、「安倍一強」の現状を打ち破るために大同団結するという決断は、唐突ではあるが、戦術としては間違っていない。
民進党のまま選挙に突っ込めば、希望の党の100人超の公認候補と各選挙区で競合する。民進党からの離党者が相次ぐことも容易に予想できる。
そして、マスコミは日々、小池代表の動向を詳細に報じるので「自民党VS希望の党」という構図が全国で生まれ、民進党はますます埋没し、支持率も落としていくことは明らかである。
マスコミ各社の調査でも、希望の党の支持率は20%前後、民進党は7%前後でもある。前原代表も後に語っているように、この段階ではこの選択しかなかったのだと思う。
自他共に認めるリベラル派の阿部知子氏は、「政権交代につなげるために何をすべきかの結果」とし、「原発ゼロに向けて小池さんと一緒にやりたい」と述べていた。みんな、それぞれ思いを抱えながらも大同につくという「大人の対応」をしているのだ。
民進党として出馬できないのは残念でならない。
だが、前原代表は枝野代表代行と事前に調整をした上で常任幹事会に諮り、両院議員総会で全会一致で決まっている。丁寧な党内手続きを経た党議決定である。党員として、党公認候補として、党議決定に従い、希望の党で頑張ろうと気持ちを切り替えた。
ここで大きな問題があることに気づく。すでに作成済みの印刷物だ。10月1日に新聞折込みを行う予定だった民進党機関紙号外と選挙ビラ、選挙はがき、選挙ポスターには「民進党公認」とある。すでに印刷済みのものは廃棄、輪転機にかかっているものは中止ということになった。
◆小池百合子代表「排除」発言
明けて29日には早くも暗雲が垂れ込める。
小池代表が、「(民進党から)全員を受け入れるということはさらさらありません」と発言。安全保障、憲法観といった主要政策と一致しない民進党の候補者は「排除する」と言い切ったのだ。
仲良しクラブではなく政党なのだから、主要政策の一致を求めるのはある意味、当然である。「政策について一致できるか確認します」とでも言えば良いものを、なぜ「排除」などという乱暴な言葉を使ったのかと今でも疑問に思う。
マスコミ対策に長けた小池代表だけに、きつい表現をあえて使って「強いリーダー」を演出しようとしたのだろうか。小泉純一郎首相(当時)が、郵政民営化に反対した議員を「排除」し、いわゆる刺客を送り込んだことが念頭にあるのだろうか。
この「排除発言」は、安保法制の容認と憲法改正支持を認めない候補の「排除」という報道へと変わり、リベラル派の猛反発を受けることになった。
ただ、私の記憶が確かなら、小池代表は安保法制の容認とは言っておらず、現実的な安全保障政策と言っていたはずなのだが。
27日に発表された希望の党綱領では、「平和主義のもと、現実的な外交・安全保障政策を展開する」としか記されておらず、憲法については言及すらない。希望の党から正式に発表されている政策的なものは、この時点で綱領のみであり、あとはマスコミベースで流れてきたものばかりであった。
本当に「排除」するとしても、その基準的な部分は党からは正式には何も示されていない以上、判断のしようがないというのが正直なところであった。
さらには、「排除リスト」まで作成されて候補者名が列挙されているという。そもそも出所不明の文書であり、それがネット等で閲覧可能になっているのは、誰かが何らかの意図ででっち上げたとしかいいようがない。
実際、そのリストに掲載されていた人が、堂々と希望の党公認で立候補していることからも明らかである。
(3)に続く